古川和「体験教育のムーブメント」
私は室内や野外の自然、ロープスコースなどを場とした「自らの学び」を作り上げる体験教育、人と人を取り巻く環境との関係を見直す環境教育に携っている。子どものキャンプから社会人の研修まで指導しているが、社会が欲している人材は、自分の強みを知り、自ら学ぶ(自ら育とうという意志)を持ち、EI(感情知性)の高い人間関係のスキルが熟達している人であることを企業の研修や大学院生への授業の一部を持たせてもらって実感した。 一方、キャンプで子どもたちに自然の中での学びの場を提供しているが、自然の中での遊び、生き物の観察、スポーツ、自己概念の向上、チームワークなどの他に思考力を育てることも必要であると考えている。「正しい答えを考える」のではなく、「正しく答えを考える」道筋が大切なことである。ここで紹介する活動はエモーショナル・インテリジェンスと思考力判断力を育てることを目的としているが、体験と「楽しむ」ことが共通するキーワードである。
◆◆◆1、Action Learning Program of MBA◆◆◆ 国際企業戦略研究科では大学院の新入生と事務系職員の方、教授陣が同じ仲間、一つのチームとして、私ども野外教育団体主宰のAction Learning(体験教育)による「チームビルディングと自然と親しむ」プログラム(2泊3日)を授業の一環として行った。日本人に交じって、カンボジア、マダガスカル、米国、台湾など様々な国籍の社会人経験者たちが20数名、活動はすべて英語によって行われた。グループによる冒険の要素を取り入れたチームビルディングを目的とした体験活動であった。 体験教育(Learning by doing)はグループワークが中心で、実際のアクション(行動)とリフレクション(ふりかえり)からなり、自ら学びをしていくプロセス学習である。そこにはゴールをめざして、グループのメンバーに対して、「いま、ここに」いる人たちがお互いを受け入れ、正直に、一生懸命、安全に(身体も心も)前向きにやっていこうと約束することを確認することが基本となる。グループの目標と個人の目標に向うが、自己を理解し、自己概念の向上を目指す。Have fun!楽しんで参加することはもちろん大前提である。 アイスブレイカー(心の氷を割る、つまりお互いの距離を縮め、仲良くなれるきっかけを作る)、コミュニケーション、信頼関係の築き、イニシアティブ(問題解決、リーダーシップ)社会的責任、個人のチャレンジなどのアクティビティーをグループの発達段階にあわせて500種類くらいある中から考えていく。ロープスコースや室内、自然の中で行なう。ロープスコースでの活動においても、いままで経験したことのない高い木の上でのアクティビティーにチャレンジした。 3日目には渓流の両岸の木にロープを結び、ハーネス、カラビナを使って対岸に移動したり、自然を利用したチームとしてチャレンジする冒険的課題は、殆どの人にとって初体験である。また、静寂な渓谷や滝、森の中を歩くと、自然のもつ神秘さ、美しさへの新鮮な驚きや発見(センスオブワンダー)がある。時には川の中の石を飛びながら、落ちて濡れるかもしれないというリスクのある場所も歩いてみた。このように個人の体験をふりかえると共に、活動中にグループに何が起こったのかを話し合いをしながら、次のステップに進んでいく。 ▲達成された成果▼
以上のような体験を共有し、学ぶ手法は米国ではプラグマティズムの流れをくむデューイ(*1)による経験主義がベースとなり、すでに1970年代後半より「冒険を教室に」というロープスコースを使った冒険の要素を取り入れた教育が米国では始まっていた。(プロジェクト アドベンチャー)日本でもPAJが学校教育に普及を行なっている。 アメリカキャンプ協会の97〜98年度の資料によると、キャンプ場での青少年対象のプログラム(スイミング、キャンプ生活体験、カヤック、乗馬、環境教育、テニス、クラフトなど)において、ロープスコースなどを使ったリーダーシップトレーニング、グループカウンセリング、アクションラーニングを目標とするプログラムが代表的活動の上位に入り、ここ2、3年増加してきている。 (*1)ジョン・デューイ 「アイディアは我々が住むこの世界を、少しであろうが大幅であろうが程度に関係なく、とにかくいくらかでも再編成・再構成する行動に結びついてこそ、はじめて価値がある。」 ▲野外教育の目指すもの▼ こういった野外における活動がどのような能力を開発することができるのかと問うたとき、一言でいえばEI(エモーショナル インテリジェンス=情動知性)であろう。日本ではダニエル・ゴールマンの「心の知能指数EQ」として知られている。他人の感情を理解して自分の感情を芸術的に表現する知性といえる。 この能力はまたリーダーシップと深く関係している。突然状況の変化する厳しい自然状況下での活動には、すばやい判断と決断力、その中で活動しているグループの他の人の行動観察、そこで仲間を思いやったり、勇気づける言葉や態度、自分をコントロールすること、自信がつく、責任ある態度をとるなど、社会的、個人的コンピテンスである共感、自己認識、自己統制、モチベーション、社会的スキルを高める。野外教育は不確定要素を含むチャンスとチャレンジの場を人々に提供し、ここで身についた自信は日常の社会生活にも活かされる。
◆◆◆2、科学の体験教育◆◆◆ 次に紹介するのはカリフォルニア大学バークレー校、ローレンスホールオブサイエンスで研究開発されてきた科学のハンズオン(参加体験型)プログラムである。GEMSとはGreat Explorations in Math
and Science(数学と科学の偉大なる探検プログラム)の略称。幼稚園から高校生レベルまでを対象とした、体験型教材を開発、学校での集会プログラムの提供、また、年間50万人もの人がローレンスホールの学校向けワークショップへ参加したり、サイエンスラボや特別展に訪れている。実際に科学を体験するおもしろさを通じて好奇心や興奮を奮い立たせることがゴールである。 成城学園初等学校でも飯沼慶一教諭の指導のもと、2年クヌギ組でこのGEMSの「テラリウムハビタッツ」を実際にやっていただいた。土にもたくさん種類があることや、生き物が生きるにはどんなものが必要なのかを考える。実に楽しそうにダンゴムシやワラジムシを探し、観察したり、ダンゴムシレースをしたり、そこから土はただ汚いものじゃなく、必要なもので、様々な生き物や、土が食物連鎖にかかわり、私たちが生きていくことにも関係していることに気づく。 この授業の様子は8月にハワイで行なわれた【2000 PACIFIC BASIN CONFERENCE Intercutural Parthnerships for Effective Teathing and Learning】においてローレンスホールのスタッフとの合同研究発表を行なった。 ◇◇「GEMS Japan センター」の活動◇◇
学校に教育改革の嵐が吹こうとしている。ボランティア活動、体験学習、総合的学習の時間・・・また企業もIT(情報技術)、市場の変化の波に呑まれ、暗礁に乗り上げる企業もある。学校は暗礁に乗り上げずにすむのだろうか? 「偉くなると責任を持たされるからいやだ」日米の高校生対象調査では日本の生徒の51%がこう答えた。一方米国は「そう思わない」が82%。以上日経新聞特集「教育を問う」(平成12年10月〜)より。英国のブレア首相は首相就任前から「政府の主要な政策は3つある。教育、教育、教育である」と言い、欧米においても教育のイノベーションが最重視されている。 日本において、昨年平成11年度、不登校の小中学生は13万人を超え、高校中退は10万人あまり、こういった子ども達が増えつづける社会の責任と、日本の未来をかけて、今教育をどうするかを考え様々な変革が始められている。
|