古川和「体験教育のムーブメント」
―EQ(エモーショナル インテリジェンス)と、思考力、判断力を育てる教育をー


◆◆◆はじめに◆◆◆

私は室内や野外の自然、ロープスコースなどを場とした「自らの学び」を作り上げる体験教育、人と人を取り巻く環境との関係を見直す環境教育に携っている。子どものキャンプから社会人の研修まで指導しているが、社会が欲している人材は、自分の強みを知り、自ら学ぶ(自ら育とうという意志)を持ち、EI(感情知性)の高い人間関係のスキルが熟達している人であることを企業の研修や大学院生への授業の一部を持たせてもらって実感した。

一方、キャンプで子どもたちに自然の中での学びの場を提供しているが、自然の中での遊び、生き物の観察、スポーツ、自己概念の向上、チームワークなどの他に思考力を育てることも必要であると考えている。「正しい答えを考える」のではなく、「正しく答えを考える」道筋が大切なことである。ここで紹介する活動はエモーショナル・インテリジェンスと思考力判断力を育てることを目的としているが、体験と「楽しむ」ことが共通するキーワードである。

 

◆◆◆1、Action Learning Program of MBA◆◆◆
私が関係させていただいている一橋大学大学院「国際企業戦略研究科」はグローバルに活躍する人材を育成するビジネススクールとして2000年10月開講された。

国際企業戦略研究科では大学院の新入生と事務系職員の方、教授陣が同じ仲間、一つのチームとして、私ども野外教育団体主宰のAction Learning(体験教育)による「チームビルディングと自然と親しむ」プログラム(2泊3日)を授業の一環として行った。日本人に交じって、カンボジア、マダガスカル、米国、台湾など様々な国籍の社会人経験者たちが20数名、活動はすべて英語によって行われた。グループによる冒険の要素を取り入れたチームビルディングを目的とした体験活動であった。

体験教育(Learning by doing)はグループワークが中心で、実際のアクション(行動)とリフレクション(ふりかえり)からなり、自ら学びをしていくプロセス学習である。そこにはゴールをめざして、グループのメンバーに対して、「いま、ここに」いる人たちがお互いを受け入れ、正直に、一生懸命、安全に(身体も心も)前向きにやっていこうと約束することを確認することが基本となる。グループの目標と個人の目標に向うが、自己を理解し、自己概念の向上を目指す。Have fun!楽しんで参加することはもちろん大前提である。

アイスブレイカー(心の氷を割る、つまりお互いの距離を縮め、仲良くなれるきっかけを作る)、コミュニケーション、信頼関係の築き、イニシアティブ(問題解決、リーダーシップ)社会的責任、個人のチャレンジなどのアクティビティーをグループの発達段階にあわせて500種類くらいある中から考えていく。ロープスコースや室内、自然の中で行なう。ロープスコースでの活動においても、いままで経験したことのない高い木の上でのアクティビティーにチャレンジした。

3日目には渓流の両岸の木にロープを結び、ハーネス、カラビナを使って対岸に移動したり、自然を利用したチームとしてチャレンジする冒険的課題は、殆どの人にとって初体験である。また、静寂な渓谷や滝、森の中を歩くと、自然のもつ神秘さ、美しさへの新鮮な驚きや発見(センスオブワンダー)がある。時には川の中の石を飛びながら、落ちて濡れるかもしれないというリスクのある場所も歩いてみた。このように個人の体験をふりかえると共に、活動中にグループに何が起こったのかを話し合いをしながら、次のステップに進んでいく。

▲達成された成果▼

  1. お互い未知であった到着時のお互い会話も交わさない雰囲気が、アクティビティー(ゲーム)での自然な人との接触、触れ合いを通じて、たった48時間後には国籍を超え、和気藹々となっていた。
  2. 同じ体験を共有した仲間という意識がそのあとの授業にも影響を及ぼした。お互いの信頼関係作りができた上での授業であったため、多大に貢献できたようだったが、インパクトが強すぎて厳しい授業へ取り組む気持ちの切り替えが大変だったそうだ。
  3. 学生と教員のみならず、事務の方たちも一緒に参加したことで、組織のまとまりができた。(「国際企業戦略研究科」科長は竹内弘高教授)
  4. コミュニケーションの80%は言葉以外の手段が使われている。こういった活動が暗黙知を形式知に変換していく、グループダイナミズムのベースを形成する。
  5. 体験学習のプロセス学習についての理解と学びは自ら気づき、作り上げるものという認識ができる。
  6. 自然のもつ「癒し」はリラックスをもたらし、明日への活力となる。また感性を呼び覚まし、創造力を高める。

以上のような体験を共有し、学ぶ手法は米国ではプラグマティズムの流れをくむデューイ(*1)による経験主義がベースとなり、すでに1970年代後半より「冒険を教室に」というロープスコースを使った冒険の要素を取り入れた教育が米国では始まっていた。(プロジェクト アドベンチャー)日本でもPAJが学校教育に普及を行なっている。

アメリカキャンプ協会の97〜98年度の資料によると、キャンプ場での青少年対象のプログラム(スイミング、キャンプ生活体験、カヤック、乗馬、環境教育、テニス、クラフトなど)において、ロープスコースなどを使ったリーダーシップトレーニング、グループカウンセリング、アクションラーニングを目標とするプログラムが代表的活動の上位に入り、ここ2、3年増加してきている。

 (*1)ジョン・デューイ 「アイディアは我々が住むこの世界を、少しであろうが大幅であろうが程度に関係なく、とにかくいくらかでも再編成・再構成する行動に結びついてこそ、はじめて価値がある。」

▲野外教育の目指すもの▼

こういった野外における活動がどのような能力を開発することができるのかと問うたとき、一言でいえばEI(エモーショナル インテリジェンス=情動知性)であろう。日本ではダニエル・ゴールマンの「心の知能指数EQ」として知られている。他人の感情を理解して自分の感情を芸術的に表現する知性といえる。

この能力はまたリーダーシップと深く関係している。突然状況の変化する厳しい自然状況下での活動には、すばやい判断と決断力、その中で活動しているグループの他の人の行動観察、そこで仲間を思いやったり、勇気づける言葉や態度、自分をコントロールすること、自信がつく、責任ある態度をとるなど、社会的、個人的コンピテンスである共感、自己認識、自己統制、モチベーション、社会的スキルを高める。野外教育は不確定要素を含むチャンスとチャレンジの場を人々に提供し、ここで身についた自信は日常の社会生活にも活かされる。

 

◆◆◆2、科学の体験教育◆◆◆

次に紹介するのはカリフォルニア大学バークレー校、ローレンスホールオブサイエンスで研究開発されてきた科学のハンズオン(参加体験型)プログラムである。GEMSとはGreat Explorations in Math and Science(数学と科学の偉大なる探検プログラム)の略称。幼稚園から高校生レベルまでを対象とした、体験型教材を開発、学校での集会プログラムの提供、また、年間50万人もの人がローレンスホールの学校向けワークショップへ参加したり、サイエンスラボや特別展に訪れている。実際に科学を体験するおもしろさを通じて好奇心や興奮を奮い立たせることがゴールである。
我々は日本における普及活動のためGEMS JAPAN PROJECT委員会を発足した。このプロジェクトの目的は日本で最初の拠点(センター)を立ち上げ、カリフォルニア大学バークレー校、ローレンス科学館において開発された科学、数学の参加体験型プログラムを、紹介し、普及することである。

成城学園初等学校でも飯沼慶一教諭の指導のもと、2年クヌギ組でこのGEMSの「テラリウムハビタッツ」を実際にやっていただいた。土にもたくさん種類があることや、生き物が生きるにはどんなものが必要なのかを考える。実に楽しそうにダンゴムシやワラジムシを探し、観察したり、ダンゴムシレースをしたり、そこから土はただ汚いものじゃなく、必要なもので、様々な生き物や、土が食物連鎖にかかわり、私たちが生きていくことにも関係していることに気づく。

この授業の様子は8月にハワイで行なわれた【2000 PACIFIC BASIN CONFERENCE Intercutural Parthnerships for Effective Teathing and Learning】においてローレンスホールのスタッフとの合同研究発表を行なった。

◇◇「GEMS Japan センター」の活動◇◇

  • GEMS Japan センターは日本環境教育フォーラム内におかれ、教師、環境教育指導者、野外教育指導者、保護者の方々が、協力しあって、体験活動に基づいた問題解決方式の学習を通して、子どもたちの「自ら考える力」を導くことをサポートする。
  • 教師、教育者間のネットワーク作りセンターはGEMS のガイドブック、教師用ハンドブックなどを活用するための情報やアドバイスを提供し、日本でさらに使いやすいものにするために意見、感想を交換する場を提供するワークショップ、ホームページの開催、ニュースレターの発行をおこなう。 
  • アメリカへの窓を開くバークレー校とフォーラムがGEMS を通じてインタラクティブな関係をつくり、21世紀の教育をグローバルな協力と理解をもって進めていくために、「アメリカへの窓を開く」というミッションを遂行したい。


◇◇期待される成果◇◇

    =プログラムの参加者、生徒は=
  • グループ学習によって、メンバー間の話し合いが積極的に行われ、言語能力、コミュニケーション能力などの発達が促される。
  • 体験学習によって、プロセスを考えていく能力が高まる。
  • 活動中心の授業で問題解決過程における創造力、自主的思考力が養われる
  • 身近な素材を教材として扱う授業で学習意欲が高まる。
    =指導者は=
  • 教師、教育者間のコミュニケーションが活発になり、科学、数学の体験学習法をより深く理解できるようになる。
  • 考え方やマニュアルがしっかりとできているので、専門的知識、技術がなくても、楽しく指導(学習の支援者として)できる。
  • 体験学習の評価方法についての理論、アイディアを学べる。アメリカと日本の科学教育、環境教育の相違点、問題意識など、教師間レベルで情報交換することができる。教育のグローバル化は今後ますます進み、GEMSを通じてアメリカとだけではなく、諸外国ともネットワーキングできるであろう。


◆◆◆終わりに◆◆◆

学校に教育改革の嵐が吹こうとしている。ボランティア活動、体験学習、総合的学習の時間・・・また企業もIT(情報技術)、市場の変化の波に呑まれ、暗礁に乗り上げる企業もある。学校は暗礁に乗り上げずにすむのだろうか?
受験戦争で勝ち抜いた者たちが、自らの人生を選び取ることができない。子どもたちも目標を持てず、現状維持に甘んじている。東京大学の保健センターにカウンセリングに訪れる学生が「何を勉強してよいかわからない、どうしてよいかわからない」と相談にくる。その数昨年1年間で約600人、本郷で学ぶ学生の約一割。「たたずみくん」とよばれている。

「偉くなると責任を持たされるからいやだ」日米の高校生対象調査では日本の生徒の51%がこう答えた。一方米国は「そう思わない」が82%。以上日経新聞特集「教育を問う」(平成12年10月〜)より。英国のブレア首相は首相就任前から「政府の主要な政策は3つある。教育、教育、教育である」と言い、欧米においても教育のイノベーションが最重視されている。

日本において、昨年平成11年度、不登校の小中学生は13万人を超え、高校中退は10万人あまり、こういった子ども達が増えつづける社会の責任と、日本の未来をかけて、今教育をどうするかを考え様々な変革が始められている。
以上のような二つの体験教育を民間で微力ながら、大勢の方の協力、支援をいただきながら進めている。成城学園が学園のミッションを確立し、新しい教育改革のムーブメントの中心になってもらいたい。実に楽しそうにダンゴムシやワラジムシと遊ぶ子どもたちに未来を託したい。


Teaching Kids to Love the Earth代表 古川和
「成城教育」平成12年12月号、成城学園教育研究所発行(年4回発行)